病院のベッドはガラガラでもよいのか。

こんばんは Zettonです。

 

インフルエンザの予防接種の季節ですね。医療従事者の方は日頃接する患者さんのためにも打っておきましょう。

 

タイムラインを眺めているといつもながら興味深いツイートが流れてきました。

 

 

ブログなのでちょっと追加で説明すると、看護必要度は正確には、「重症度、医療・看護必要度」のことを指していて、簡単には、ある決められた測定方法に基づく一般病床における重傷患者の割合を指しています。

 

一般病棟には重症な患者の割合が高いほど診療報酬として1日1床あたりの入院基本料が高くなるのもあって、おもち先生の病院では、少しでも高い入院基本料を取ろうと病棟の重症患者の割合を増やしたために、病棟稼働率が下がっているのだと思われます。

 

では、病棟における重症患者の割合を高くしようとすると、病棟稼働率が下がるのはなぜでしょうか。

 

一般的に、回復の見込める急性期の患者さんが重症である期間というのはだいたい数日間で、入院して1週も過ぎるとだいたい病態は落ち着いてくる事が多いです。そのような中で病棟の重症患者の割合を高くしようとすると、病態が落ち着けばすかさず退院させようとするプレッシャーがベッドコントロールを担っている病棟師長に働くので、病棟稼働率が落ちていくのですね。

 

ここで、病院の入院における収益構造を説明しておきます。

 

これはシンプルな式に表すと

 

入院診療収益=稼働率×平均単価(×病床数)

 

で決まります。差額ベッド代とかのその他の費用がありますが、保険を用いた入院診療と比較すれば微々たるものなので、あまり考えなくてよいでしょう。また、通常の運営では病床数を簡単に増やしたり減らしたりはしないので、病床数に関しては原則、定数として扱うことができます。

 

すると、入院による収益を伸ばすためには、稼働率をあげるか単価をあげるかという事になりますね。稼働率を上げるには、患者を集める事が何より大事で次にしっかりと治るまで(もしくは診療報酬上定められた在院日数まで)は入院させておくことでしょう。また単価を上げるには、重症で手術等の治療介入の余地が大きい患者を多くみて、改善し治療の必要性が少なくなってきた患者はできるだけ早く退院させることが大事になります。

 

もうお気づきの読者の方もいらっしゃると思いますが、患者の重篤度や治療内容が変わらないとすると、それでも単価を上げようとするならば、早く退院させざるを得なくなり、稼働率が下がる方向に向かいます。別の言い方をすれば、病床回転率を上げると単価は上がりますが稼働率が下がるようにできています。収益を考えると回転率をとるか稼働をとるかについてどう考えるかが今回の議論のポイントになりますね。

 

ここからはグラフを使って考えてみることにしましょう。

 

今回のモデルでは、患者の入院時の重篤度や治療内容は変化させないことを前提とするので、単価は病床回転率と置き換えて、病床回転率/稼働率でマトリクスを書いてみることにします。

 

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入院診療収益が1番高いのは、病床回転率が高く稼働率も高い①ですね。逆に一番低いのは④で、これはまぁ当たり前でしょう。

 

では、残りの2つの事象の入院診療収益の順序はどうなるでしょうか。

 

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これは、多くのケースにおいて上の番号の順序になります。収益の観点からすると、病床回転率よりも稼働率を優先する方が収益が上がることが多いです。計算の詳細は複雑になるのでここでは公開しませんが、現在の診療報酬設定でいえば、一般病棟だけでなく、回復期病棟でも療養病棟でも精神科病棟、介護施設でもおおむね同様ですね。病院の管理者の方は一度、医事課と相談してみて自院が本当にそうなるか是非シミュレーションしてみてください。

 

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なので、

 

 稼働率を落とす前に、病床回転率を下げに行く

 

ことが、入院してくる患者数や背景が同じ状況下で病院の収益をできるだけ落とさない戦略として大事になってきます。そういう訳で、先のツイートのように、回転率を高めるために稼働率を犠牲にすると病院の収益的にはかなり危ないのでは、と感じています。逆に回転を上げに行くのならば、それは稼働率を十分高めてから行った方が経営上健全と言えるでしょう。

 

実は、2018年4月の診療報酬がなされる前までは、7:1入院基本料といって、患者7名に対して看護師1という人員配置の充実していて、高い重症度、医療・看護必要度を求められる病棟が診療報酬的にかなり優遇されていました。なので、色んな病院がこの7:1入院基本料を取りに行き死守していたのですが、今回の改定ではその優遇効果はあまりなくなってしまい(いわゆる梯子が外され)、明確に上のマトリクスが当てはまるようになってきました。

 

因みに、病院の稼働率ってどれくらい維持する必要があるのでしょうか。

病院には、支出として、決められた人員配置をクリアするための人件費であったり、その他の必要な医薬品、診療材料費、医療機器等の等固定費がかかります。なので収入が低いと当たり前のように赤字なのですが、それが黒字に変わる平均的な一般病棟の稼働率は80%強になります。とすると、単価が平均的な病院に関しては、この稼働率80%強を守っていくことが基本になりますね。

 

今回のモデルでは費用については触れませんでしたが、一般的に病床回転率を上げるにはそれに応じて医療スタッフが必要とされ、人件費が高まることとされています。収益に費用も考慮に入れた収支差(利益)の話になると高回転率優先の病院はそれも分が悪くなる要因の一つと考えています。

 

 

今回お示しした戦略はあくまで、あくまで短期的な時間軸で病院経営をみた場合のお話になります。中長期的に考えると、また別の作戦が必要です。次回はその話をしていこうと思います。

 

それでは、またtwitterで!