訪問診療で思うこと
こんばんは。Zettonです。
昨日、何気なく自分の呟いた訪問診療に関するtweetに反響があったようなので、ちょっと思ってたことを簡単に書いてみようと思います。
日本では医師が患者宅に定期的に訪問して診療する訪問診療が普通に行われてるけど、寿司職人が家に訪問して握りに来る様な本来金持ちしか出来ないようなイベントが、普通の家庭で普通に行われてる事に日本人は少し違和感を覚えた方が良いと思うんだ。
— Zetton (@Dr_Zetton) 2018年11月4日
簡単に、訪問診療とは、事前に計画を立て患者の自宅等に医師が定期的に出向いて診療することをいいます。ちなみに、患者の求めに応じて緊急的に自宅等に診察に出向くのは往診ですね。
お医者さんは周知のごとく、時給単価も高いし数も限られるので、訪問診療のような出張診療を日常的に行うのは彼らの移動時間を考えるととても勿体ない活動なんじゃないかと思って今回上の様に呟きました。
市場経済がうまく働いているであろう寿司業界では、貴重な資源である寿司職人が客の家まで行って寿司を提供すると、安いとこだと1回4万円位の最低注文金額で受注を受け付けてくれるようですね。普通の家庭なら何かの記念日じゃないと払えない価格だと思います。
一方の訪問診療では、診療内容、月の訪問回数、医療機関の施設基準、患者の状態等にもよりますが、一軒家への訪問診療に発生する診療報酬は管理料を含めてだいたい1回4万円前後ですね。これをだいたい月2回+αで毎月(亡くなるか入院するまで)行っている所が多いようです。
訪問診療は出張での診療なので、普通の外来と比べ医師の移動時間が大きくかかります。それでも訪問診療が日常的に行われるようになってきたのは、患者側の要望のみならず、比較的高めに設定された訪問診療に対する診療報酬によるのだと考えています。
では、訪問診療の診療報酬は割高なのになぜ普通の家庭が普通に支払えるのかというと、これは保険が効くからでしょう。訪問診療を受けるのは後期高齢者が多いでしょうから、実質負担は1割だったりすることが多いです。お医者さんが家まで訪問してくれて支払うお金が1回4万円の保険適用後自己負担4000円だったら、仮に頑張れば通院できたとしても手間を考えると訪問診療を選択することを考えても不思議ではありません。因みに訪問診療を受けてる患者が同じ様な内容でクリニック外来を受診すると、だいたい1回1万円弱、保険適用後自己負担は1000円弱位です。
同じような診療をしていても、これだけ訪問診療と外来診療で診療報酬が大きく異るのは、医療者の移動時間のコストを診療報酬に上乗せしているからでしょう。事実、同じ訪問診療でも施設等でまとめて診察する場合だと、まとまった所に患者がいるので移動時間はそんなにかからないだろうと診療報酬は1人1回2万弱に設定されています。
訪問診療は、医師が自宅まで医療を届けにきてくれるサービスを享受する患者にとっては保険が効いてるのでお得です。医師にとっても診療していない移動時間まで診療しているように報いてくれる報酬設定なのでお得でしょう。
では、個別宅まで訪問診療をひろく実施して割を食ってるのは誰かというと、これは国民ということになりそうです。訪問診療の支払いの約9割は国民の健康保険料と税金から補填されるような構造になっているからです。
なぜ訪問診療にこの様な旨味のある診療報酬を政府が設定したかを考えると、それは医療費が財政を圧迫する中、大きな割合を占める入院医療費の削減には在院日数を短縮し、病床数を減らす必要がありますが、その結果、病院以外で医療を要する患者の受け皿として在宅医療の充実が必要であると考え、その方向に誘導しようとしたものでしょう。
この国の方針自体はよいと思うのですが、現在の訪問診療の問題点は、医師のような高単価人材の移動時間を多く食うために医療提供の効率性を落としている点でしょう。ちなみに、単価は落ちますが、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問介護、訪問薬剤管理指導...etc 全て同じ構図で、出張による移動時間コストまで診療報酬や介護報酬に反映しており、同様の問題を抱えていると思われます。
それでは国としてはどうすればよいでしょうか。政府もいろいろな対策を打ち出しており、2018年は、一定以上の介護度のある人に訪問診療の対象を絞ったりしています。
僕としては
在宅医療介護が必要な人は、医療者介護者との導線を短くする
ことができればよいのではないかと考えています。
例えば
- 在宅医療介護の必要な人を施設に集約する
- 病院の近くに在宅医療介護用の施設をつくる
等です。
そうすれば、個別宅まで向かう医療介護人材の移動時間を削減でき、その時間で他の多くの患者を診れるようになるでしょうし、介護をより効率よく受けられる分、介護を担っていた家族は外に働きに行くこともできるようになるでしょう。
もちろん、人生の最期は、慣れ親しんだ自宅で在宅医療介護を受けたいという人もいるでしょう。そのような(結果として医療介護の提供の効率性を落としてしまう)人には、入院の個室料金の様に在宅医療の出張費用をオプション料金として自費で負担してもらえばよいのではないでしょうか。
集約が効率を高めるのは保育の場合を例に考えると、既に幼稚園とか保育園という集約した施設があるのでわかりやすいかもしれません。個人宅に呼ぶ保育士シッターさんは個人負担が多い設定にもなってるはずです。
施設は高い??月額家賃の割高な老人ホームに入ることを想定しているとそうかもしれません。しかし、最近で言えば割安のサービス付き高齢者住宅もありますし、今後こういった老人ホームやサ高住でありがちな華美な設備をやめて価格を落とし、介護する機能を重視することができれば、日本のこれから迎える多死社会への大きな武器になると僕は思います。
それでは、またTwitterで。